次世代インターネット技術動向

砂原 秀樹

奈良先端科学技術大学院大学

情報科学センター

630-0101 生駒市高山町8916-5

TEL: 0743-72-5151, FAX: 0743-72-5149, E-Mail: suna@wide.ad.jp

 

 


 

1.    はじめに

1999年度より郵政省通信・放送機構によって研究開発用ギガビットネットワーク(通称:JGN)の運用が開始された。このJGNの回線を用い、WIDE プロジェクト、ITRC、サイバー関西プロジェクトによる研究グループJBプロジェクトが組織されている。ここでは、IPv6、高信頼マルチキャスト技術、QoS技術などの次世代インターネット技術を基盤技術とし、これらを用いたアプリケーションの研究開発が進められている。本論文では、これらの研究の概要を述べるとともに、超高速インターネットを背景に構築される新しい社会について考察する。

 

2. 基盤技術

2.1. IPv6

 IPv6は、次世代のインターネットの基盤となる技術として注目されている。IPv6では、単にアドレス空間が128bitとなるだけでなく、自動設定による運用の簡易化、マルチキャストやモバイルへの対応、リアルタイム通信への対応などを特徴として設計がなされている。特に、セキュリティ技術の組み込みは、現在のインターネットの状況を考慮すると最も重要なポイントとなると考えられる。

 

2.2. 高信頼マルチキャスト技術

IPv6では、マルチキャストによる通信を実現する機能は組み込まれているが、これだけでは実用的なマルチキャストサービスを構成することは難しい。特に、マルチキャストによって送信されるデータが、正しく目的地に到達することを保証する技術は、実用的な応用を構成するうえで不可欠である。JBプロジェクトにおいても、高信頼マルチキャスト技術の開発を進めており、これらを用いたサービスの実現とともに研究を進めている。

 

2.3. QoS技術

インターネットの利用形態が変化するにつれ、従来の最善努力型の通信だけでは、サービスの品質を保証することは困難となってきている。特に、リアルタイム型の通信では、帯域や応答時間の保証など、QoSの技術が不可欠となってきている。IETFにおいても、クラス別でのサービス処理を行うDiffServ技術の検討が進められている。

 

 

3. 応用技術

3.1. DV/IP

高品位のデジタルビデオ画像を伝送する技術として、DVのフレームをそのままインターネット上に流通させる技術の開発を行っている。DVのストリームは、フレーム内圧縮のみを行っており、秒30フレームの画像では約30Mbpsのストリームとなる。このDVストリームを、利用できる帯域に動的に対応させるため、フレームを間引くことによって帯域を調整する仕組みについての研究も進めている。

 

3.2. マルチキャスト会議システム

DV/IP技術は、基本的に一対一での通信を基本としているが、この技術をマルチキャストに応用することも可能である。これまで、PIM-SMによるマルチキャストを用いて、WIDEプロジェクトの研究会、及び、ウィスコンシン大学、慶應義塾大学、奈良先端科学技術大学院大学の3大学による遠隔授業を行っている。

 

4. まとめ

超高速インターネットを用いることによって、DVクラスの画像を比較的容易に伝送することが可能となってきている。その結果、3大学による遠隔授業においても、ストレス無く通常の授業を行うことが可能であった。このことは、バックボーンネットワークにおいては、より高度なデータの配信を自由に行うことができることを意味している。

しかし、一方で支線系のネットワークを見た場合、いまだに数十Kbpsや数百Kbpsから数Mbpsの回線が用いられている状況である。この状況は多少改善されるであろうが、DWDM技術の登場などにより、支線系のネットワークとバックボーンネットワークの差はますます大きくなると考えられる。このような環境において、ネットワークにおけるフローの制御はより繊細なものが要求されるようになってくるであろう。

こうした結果として、より高度なデータが配信されるようになると同時に、受け手の状況に応じて適切な品質のデータが選択(あるいは変換)され配信されるようにならなければならない。インターネットは今後、人間同士のより自由なコミュニケーションを支援してゆくと同時に、そこで流通する情報を蓄積することにより、人間の知的財産を共有する基盤として発展していくことが望まれている。そのため、単に高速なネットワークというだけでなく、支線の状況も配慮したデータ配送のメカニズムが不可欠となってくるであろう。

こうした技術を背景として、インターネットは人間にとってより密接な通信基盤となるであろう。