XMLをベースとする地理情報配信システムの構築

山島一浩 石塚英弘
図書館情報大学
〒305-8550 茨城県つくば市春日1-2
E-mail: {yamak,ishizuka}@ulis.ac.jp

概要:

我々はXML(Extensible Markup Language)とその関連仕様を用いて、分散した地理情報モ デルを加工し、利用者要求に応じた構造を持つ情報モデルと多様な可視化要求に応じて配信 する地理情報配信システムを開発した。本システムの基本情報は、標準メッシュJIS C 6304 を基にしたRDBMS用のスキーマを定義し、登録した日本地図データベースにある。地図の基 本情報は、利用者要求により、管理しているDTDに則した要素に対応するデータをRDBMSから SQLで選択し、XMLで定義した上で配信される。そのデータをXSLT(Extensible Stylesheet Language Transformations)の変換規則で処理することで、その他のXMLで定義された情報モ デルや、HTML, VRMLなどに変換し配信する。

キーワード: XML  地理情報 配信システム XSLT

A Construction of a Geographic Information Delivery System Based on XML

Kazuhiro Yamashima, Hidehiro Ishizuka
University of Library and Information Science
1-2, Kasuga, Tsukuba, Ibaraki, 305-8550, Japan
E-mail: {yamak,ishizuka}@ulis.ac.jp

Abstract:

We developed a geographic information delivery system that is a web system based on XML(Extensible Markup Language) and related standards. This system processes distributed geographic information, transforms it to the information whose structure is corresponding to end-user's needs, and then delivers the information in the format corresponding to end-user's various needs for visualization. The system is basically Japanese geographic database, where a schema for RDBMS is defined and registered. The schema is based on the standard mesh of JIS C 6304. When an end-user requests information, the system retrieves data from RDBMS with SQL, and transforms the data to the one in XML syntax to deliver it. The system also transforms the XML data to other data model based on XML, HTML or VRML with XSLT (Extensible Stylesheet Language Transformations) to deliver it.

Keywords: XML  Geographic Information  delivery system XSLT


1. はじめに

 近年、インターネットだけでなく、その上に載る情報自体をインフラと観る動きが出てき た。ガスや電気などのライフラインと同様に、配信される情報を受け取ることで、生活の利 便性を高めることが期待されている。この場合、情報は単に閲覧されるだけでなく、加工さ れ、付加価値をつけて配信されることになろう。例えば、WWW上の分散した情報資源を組み 合わせて利用したり、デファクト標準やデシュール標準などの複数の情報モデル間で相互利 用したコンテンツを配信する等である。しかし、インターネット上の分散した情報資源より、 情報を検索し、さらに利用者の目的に合わせて利用できるようにすることは容易ではない。

 地図の情報は、公共性の高さから見てインフラに相応しい基盤情報であり、このような課 題に適していると考えている。我々は、このような観点から、情報流通の促進を支援する Webサーバー・クライアント・システムを検討し、開発するものである。

2. 地理情報配信システムのコンセプト

 例えば、ブラウザから閲覧する地図を、地物名等の経緯度情報を持つテキスト情報と、周 辺の位置を確認できる地図画像とでコンテンツを作成するとする。仮にテキスト情報は手元 に在り、基図となる地図画像がない場合、あらかじめWWW上で蓄積されている地図画像を利 用できると便利である。

XMLによるオンデマンド地図
図1.XMLによるオンデマンド地図

図1は、画像データと地理的な情報を蓄積したテキストの専門データベースがそれぞれ分 散しており、利用者が扱うデータを合わせて再構築し、新たな地図コンテンツとして配信す ることを可能にするオンデマンド地図の概念図である。 このようなニーズについては、例えば次のような需要があると考える。 現状のWWW上で地図を配信するサービスの中に、地図コンテンツ提供し、利用者の個人情 報を登録し、配信できるようにするものがある。しかし、顧客情報などの機密情報を、ある 特定の人だけが閲覧でき、地図管理者側に、その情報を登録したくない場合、利用者と地図 管理者とで別々に情報を管理する必要が生じる。また、必要な地図の情報量も利用者にとっ て様々であろう。そこで、地図情報の提供者とその利用者間で、分散した地図情報から、利 用に適した必要な情報モデルを容易に組み合わせ、XMLベースの情報モデルの交換を行い、 先のオンデマンド地図を作成して利用する。この場合、提供者側で示す情報モデルが利用者 側で利用可能かが判ればよいことになるので、利用者の機密にしたいデータを提供者に登録 する必要は無くなる。 本研究では、このようなXMLを用い地理情報の蓄積と多様な利用者要求に応える効率的な 地理情報配信システムを構築するのが目的である。

3. システムの概要

 本システムの配信サーバが目指したものは、次の三点である。

 (1) 標準化された情報モデルの流通による相互利用の促進を支援する

 (2) 地理情報モデルに対する多様な可視化要求に対応する

 (3) 情報モデルの柔軟な変換に対応する

 (1) では、情報流通において地理空間データが複数存在する前提の上で、流通を促進すると いう観点より、サーバが管理する情報資源から配信可能なXML規格の地理情報モデルの構造 定義を管理する機能を設計する。このため、構造を定義するDTDをスキーマに登録する。

 (2) では、利用者の可視化の要求には、2次元の他、3次元で見たいというものもありえる。 このような要求に対して、管理しているXMLの地理情報モデルから、HTML形式の他、VRML (Virtual Reality Modeling Language)等の利用者要求に対応した書式に変換して配信す る機能を設計する。

 (3) では、標準化された情報モデルを利用し、別の標準化モデルへと変換する作業、様々な 標準モデルを横断的に利用する場合に必要となる。このような情報モデルの柔軟な加工に、 XSLT(XSL Transformations)を用いる。システムが管理する情報資源において、変換規 則の拡張を行える機能を設計する。

構築したシステムのデータベースの構造
図2.構築したシステムのデータベースの構造

図2は、先の目標に照らして設計した地理情報配信システムの概念図である。クライアン トに配信されるデータ表現は、本システムが管理するXMLデータとXML-DTDとStyleSheet で決定される。 このデータベースの構造は、データ資源として標高や画像とそのメタデータを登録した地 図情報スキーマと、構造とスタイルを管理するスキーマとして定義したリポジトリ資源から なる。リポジトリ資源が管理する情報は、XML情報モデルの構造を規定するDTDを管理する DTD管理スキーマと、多様な可視化要求に応えるためのXSLTの所在情報を管理するXSLT管 理スキーマからなる。これにより、DTD管理スキーマに登録されたDTDにより、情報モデル を認識するための妥当性を検証する手段を持ち、XSLT管理スキーマに登録されたXSTLファ イルから、利用者の要求に応じた変換規則を適用する手段を提供することが可能となる。 また、この管理機構は、データベース側に向く矢印が示すように、クライアントが提供す る構造定義と構造変換規則を登録することで、配信可能な情報モデルの数を容易に増大させ ることが可能となる。

4.地図情報スキーマ

本システムのデータベースに蓄積した地理空間データは、メッシュ情報を基準とする形式 で集めた日本の地形図の画像や標高点、そして公共施設である。これをデータベース上に定 義した地図情報スキーマに、地形図情報と、公共施設情報に分けて蓄積する。地形図情報は、 地形図データと、それにアクセスするためのメタデータからなる。これらのデータは、国土 地理院の数値地図の情報をもとに加工し生成したものである。

 図3に示すように、本システムの地図情報スキーマは、地形図情報と公共施設情報からな る。

RDBMS上で管理する地図情報スキーマ
図3.RDBMS上で管理する地図情報スキーマ

4−1.地形図情報

 地形図情報は、管理用の地形図メタデータと実データによる地形図データで構成される。 地形図メタデータは、地形図をメッシュコードや図名等で特定するために、JIS C 6304の1 次、2次のメッシュ情報を管理する。1次メッシュ情報には、4桁の1次メッシュコード、 20万分の1の地勢図名が登録してある。2次メッシュ情報には、1次メッシュコード、6桁 の2次メッシュコード、図郭の経緯度とその名称、縮尺、範囲内の最大標高値と最小標高値 が登録してある。

 地形図データは、標高値から生成した地図画像と標高情報である。地図画像は、2次メッ シュコード単位に、標高データと海岸線データをもとに地形図画像生成プログラムを作成し、 出力したものである。地図画像は、標高データを元に高さ別に色分けしたものである。海岸 線データは、標高データのみでは復元できない海岸線と主要な湖沼線を補正している。デー タベースには、総数1764図葉分を登録してある。標高データには、数値地図情報の50mメ ッシュ(計188,680,000点)だけでなく、それを元に生成した100mメッシュ(計47,170,000 点)を登録した。この中から、図郭ごとに50mメッシュなら4万点、100mメッシュなら1 万点のデータを利用者の要求に応じて配信する。

4−2.公共施設スキーマ

 基本地形図情報上に展開する主題情報として、102,476件の公共施設データについてスキ ーマを定義し、データベースに登録した。定義したスキーマは、公共施設名とその所在地、 産業分類項目により分類されたコード、経緯度情報、二次メッシュ情報からなる。

5.システムの構成

 本システムは、RDBに蓄積されたデータを、利用者要求により、要求内容に従った情報モ デルで配信する。

システム構成
図4.システム構成

 OSにLinuxを採用したサーバマシンには、Apache 1.3.12をWebサーバとして稼動させて いる。これにサーバサイドスクリプトのPHP(Hypertext Preprocessor)4.0.3を DSO(Dynamic Shared Object)モジュールとしてインストールした。DSOは、必要なモジュ ールを実行時にリンクするので、メモリ消費や、CGIに比べプロセスの起動・終了に関する 負荷がかからない等の利点がある。また、PHPには、変換規則を適用するためのXSLTプロ セッサとしてSablotron0.44を組み込んでいる。

 また、RDBMSには、PostgreSQL7.0.2をインストールして使用している。Webサーバ 内で登録されているPHPスクリプト言語で記述されたSQL操作命令により、データベー スの各スキーマからデータを取得する。取得したデータは、PHPのスクリプトにより、本 システムで定義したXMLの構造を持つ。

6. 配信例

本システムからは、XML構造のデータのまま取得したいという要求が出された場合は、そ のまま配信される。異なるXML構造の配信を要求した場合には、選択したスタイルに変換す るXSLTファイルを使用し、目的のXMLやHTML、そしてVRMLの各書式に変換され配信され る。また、本システムに管理されているDTDに対応するXMLデータを利用者側で持ち、スタ イルリポジトリ資源に登録されているスタイル情報のみを必要とする場合には、該当する XSLT形式を配信することもできる。

 配信例として、図5に示すような、データ交換、コンテンツの配信(2次元、3次元)に ついて検討し作成したコンテンツを示す。

システムの出力例
図5.システムの出力例

受信側のシステムで再利用したい場合等には、データ交換を目的とするXML形式のデータ を配信する。この場合、その交換データとしてG-XML形式の出力を想定した。G-XMLの仕様 は、G-XML実用化連絡会で第1版(2000年5月)が公開されている。 また、一般の利用者を想定した場合、HTML形式で配信され、ブラウザで直ぐに閲覧でき た方が実用的である。このように利用者が2次元の地図を要求した場合、地図情報スキーマ からの地形図画像と、スタイル管理スキーマからXSLTとスタイルを定義するCSSとHTML が記述された情報を使用し、サーバ側でHTML形式に変換した2次元地図を配信する。地形 モデルを3次元で閲覧したい場合には、VRML形式の配信要求を指定することで、この形式 で配信される。 このようなさまざまな可視化を行うためのコンテンツ例として、2次元と3次元の同様の 機能を持った公共施設検索地図を作成した。図5では、この公共施設の位置を示した記号部 分に、その施設名をキーワードとする検索サイトへのリンクが張られているので、それをク リックし、さらにその情報について調べることができるコンテンツとなっている。 配信を制御するPHP側では、単純にXMLとXSLTのファイルを指定するのみの処理である ので、変換規則を適用させる個所の処理構造は単純である。このように、本システムでは、 すべての変換規則は、XMLに対して適用している。

7.まとめ

 本システムの特徴は、XMLの抽象レベル間の相互利用が行える機能と、一つの構造に対し て多様な可視化要求に対応する機能を有している点である。

 情報モデルをどのように捉えるかにより、標準とされる情報モデルは複数存在する。この ためどの分野へも、それに合わせた適切な情報を配信する機能が必要となる。本システムは、 標準モデル間の横断的な利用が可能である。 本研究で行った、地理情報モデルの標準化動向を踏まえ、XMLをベースとする地理情報モ デルを検討し、DTDとXSLTをリポジトリ資源とするこの方式は、配信システムに有効な機 能を提供するであろう。

参考文献

[1] XMLの背景と基礎 村田 真 人工知能学会誌 Vol.13 No.4 1998.7

[2] 空間情報工学 村井俊治 社団法人 日本測量協会 1999.4

[3] G-XMLの概要 財団法人 データベース振興センター 2000.5

[4] http://www.gingerall.com/charlie-bin/get/webGA/act/sablot_man.act

[5] http://www.w3.org/XML/

[6] http://www.w3.org/TR/xslt

使用したデータ

国土地理院 数値地図25000(地名・公共施設)             2000
国土地理院 数値地図50mメッシュ(標高) 日本−I       1999
国土地理院 数値地図50mメッシュ(標高) 日本−II      1997
国土地理院 数値地図50mメッシュ(標高) 日本−III     1997
国土地理院 数値地図25000(行政界・海岸線)             1997