Library Automation in Thailand
タイにおけるライブラリ・オートメーション

Vilas Wuwongse
Computer Science and Information Management Program
School of Advanced Technologies
Asian Institute of Technology
Km. 42 Paholyothin Highway
Klong Luang, Pathumthani 12120, Thailand
email: vw@cs.ait.ac.th

(訳:杉本重雄・図書館情報大学)

概要

タイでは、タイ国立図書館(National Library of Thailand, NLT)と多くの大学図 書館が種々のサービスや先進的な情報技術に対する要求のの増加に対応すべくシステ ムとサービスの自動化を積極的にに進めている。大学省(Ministry of University Affairs, MUA)の指導の下、NLTと大学図書館によって図書館の自動化と資料ディジ タル化、ならびにネットワーク化のためのプロジェクトが進められている。NLTは資 料収集、目録作成、OPAC、サーキュレーション等に図書館用パッケージ・ソフトウェ アDYNIXを採用し、自動化を進めてきた。また、イメージデータの蓄積・検索および indexingのためにそれぞれMEGA MEDIAとBRS/SEARCHを用いて資料のディジタル化を進 めてきた。図書館館サービスと情報資源の共有のため、MUAは地方大学の図書館、中 央の大学図書館を結ぶネットワークの二つのプロジェクトを助成してきた。この二つ のネットワークはそれぞれPULINETとTHAILINET-Aと呼ばれ、本稿では将来計画と合わ せてその概要を述べる。

1. はじめに

 情報の生成と流通の技術の発展とともに、非常に多種多様なデータ、情報、それに 知識が作り出されるようになった。その結果、ひとつの図書館だけで、必要とされる 全ての資料を集め、利用者が満足するサービスを提供することはとても困難なことに なってきた。利用者は、必要な時にすぐ、完全かつ最新で正確な情報を図書館で得ら れることを期待している。多くの図書館がコンピュータネットワークを利用してこう した要求に答えようとし、また、図書館の自動化と図書館間協力によってサービスと 作業の効率化をはかってきた。これまでに進められてきた図書館ネットワークによっ て、参加館間での資源共有が進み、時間と労力および費用が節約されるようになって きている。

 タイの図書館では80年代中頃から資源の共有や効率化の問題に直面してきた。 1986年3月地方の地方の6大学の7図書館が目録や逐次刊行物のデータベースを開発し 共有化する目的で共同事業の計画を開始した。その後、さらに3大学が参加し、 MUAからの大きな助成が得られたことによってPULINET(Provincial University Library and Information Network)が作り上げられることとなった。同じ頃、バンコ ク首都圏(Bangkok Metropolitan area)の12大学によってThai Academic Library and Information Network-Metropolitan (THAILINET-M)が作られた。この二つのネット ワークは将来Thai Academic Library and Information Network (THAILINET)として まとめられることになっている。さらに、教育省(Education Ministry)の下にある NLTでは自動化のプロジェクトが開始され、1996年にはシンプルな構成のディジタル 図書館の試作がなされた。

 以下、本稿ではタイ国立図書館(National Library of Thailand, NLT)、PULINETお よびTHAILINET-Mの目的、現状および将来の構想について述べる。

2. タイ国立図書館

 タイでは、大学省(Ministry of University Affairs, MUA)が高等教育を担当し、 教育省(Ministry of Education, ME)が初等・中等教育、職業教育を担当している。 教育省は全土に分館を持つNLTをも担当している。

 教育省は1991年以来NLTの業務の効率化とマルチメディア情報の蓄積と検索といっ た新しいサービスのための予算を組んできた。この図書館自動化の事業には次のよう なものが含まれている。

1.図書館用ソフトウェアDYNIXの導入

 1991年、NLTは16ユーザのDYNIXを持つIBM RISC/6000 Model 530(後に32ユーザに 更新された)を導入し、収集、目録作成、OPAC、逐次刊行物コントロール、サーキュ レーション、メディア・スケジェーリング、移動図書館管理、およびコミュニティ サービスのために利用を開始した。

2. 情報蓄積・検索システム(An Electronic Information Storage and Service System)

 このシステムはイメージドキュメントと全文処理機能を持つ主要な二つのサブシス テムからなっており、ディジタル図書館のための技術を探るための試みと見なすこと ができる。イメージドキュメントのためのサブシステムには、光ディスクアレイ上で の情報蓄積と検索を行なうソフトウェアMEGA MEDIAが利用されている。全文処理サブ システムにはイメージドキュメントのテキストおよび索引情報をハードディスク上に 蓄積し検索をするソフトウェアBRS/SEARCHが利用されている。これらはSmalltalkで 記述されユーザフレンドリなGUI(Graphical User Interface)を提供する応用ソフト ウェアによって結ばれている。イメージドキュメントはスキャナから入力される。入 力される各ドキュメントには書誌情報および/またはドキュメントに関する記述テキ ストが付与される。イメージ文書の検索にはBRS/SEARCHを用い、キーワードもしくは 付与されたテキスト中の語を用いて検索がなされる。このシステムは1996年に開発さ れ、現在、試験が行われている。蓄積されたドキュメントには楽譜、雑誌や新聞の記 事、図書が含まれている。

3. PULINET [2, 3]

 12の地方大学の図書館の協力によってPULINETができた理由は、各大学図書館が同 じような問題、例えば予算の制約、人的資源の不足、学生と教員の増加、学術分野と 研究教育プログラムの広がりによる最新情報への要求の高まりといった問題に直面し ていたためである。1985年10月28日に開催された学長会議において、これらの大学は、 無駄な支出を削減し、効率的かつ柔軟な情報の共有と相互利用を可能にするため、大 学図書館間の共同利用ネットワークを実現することが必要であると合意した。はじめ にPULINETはChiang Mai University、Khon Kaen University、Prince of Songkla University(2図書館)、Mahasarakharm UniversityおよびMaejo Institute of Agricultural Technologyを結んだ。これらの図書館は雑誌の統合リストの作成、専 門分野毎の拠点化、図書・資料の総合目録の作成、相互貸借等情報資源の共有のため に多くの共同の事業を進めた。始めは多くの作業が手作業であったが、後にパーソナ ルコンピュータが導入された。図書館システムの相互接続のために3年間で560万米ド ル相当の予算が付けられたのは1993年になってのことである。このころまでに、 Burapa University、Naresuan University、Ubonratchathani University、 Suranaree University of TechnologyおよびTaksin Universityの7図書館がプロジェ クトに参加した。これらの内の11の大学図書館(1大学は最終決定に至っていない) では、INNOPAC(6)、DYNIX(2)、HORIZON(2)、VTLS(1)の4つの異なるソフトウェアパッ ケージが利用されている(カッコ内は採用数)。また、これらは科学技術環境省の国 立電子コンピュータ技術センター(National Electronics and Computer Technology Center, NECTEC)が運営する学術用インターネットThai Sarnから利用することができ る。

4. THAILINET-M [1, 2]

 THAILINET-Mプロジェクトは1993年の大学省の大学図書館開発部会の決定で開始さ れた。ある意味においては、これは数年早く始まったPULINETによって刺激を受けた ためとも言えよう。THAILINET-Mは659万米ドル相当の予算で3年間のプロジェクト (1995-1997)として進められており、Chulalongkorn University、Kasetsart University、Thammasart University、Mahidol University、Ramkamhaeng University、Silpakorn University (Wang Ta Pra)、Srinakarinvirote University (Prasarnmit)、Sukothai Thammathirat Open University、the National Institute of Development Administrationおよびthe King Mongkut's Institute of Technology(バンコク首都圏の中のLardkrabang、Thonburiおよびバンコク北部の分 館を含む)の各大学が参加している。 このプロジェクトの目的は以下のとおりである。

(1) 高等教育の環境を充実するという国家的な目標に合い、かつ大学内、国内、なら びに海外との間での効果的で効率的な情報資源の共有を支援する情報サービスのため に十分な能力と効率性を備えた図書館システムを開発すること。

(2) 学術情報サービスを効率化し、資源の重複を避け、運営とサービスを経済的にす るため、最新のコンピュータと通信技術を利用して首都圏大学図書館ネットワークを 作ること

(3) PULINETとTHAILINET-Mを一つの全国的なネットワークとして統合し、他の国内 ネットワークや国際ネットワークに接続すること。

(4) 新しい情報技術を吸収し新しい情報サービスに対する要求に答えられるよう人的 資源ならびに図書館資源を開発すること。

 このプロジェクトを進めることによって以下のことが実現できると考えられる。

(1) 参加図書館間での共有と相互利用のために標準化された図書および学術資料の データベース

(2) 大学内および大学間でのオンラインサービスを実現するため、各図書館の現状と 今後の発展に適した図書館用のソフトウェアもつコンピュータと通信装置

(3) 12の大学図書館を結んだ情報検索サービスを行ない、かつPULINETとインター ネットとも接続できるシステム

(4) 最新の情報技術に関する十分な知識を持ち、また学術情報の運営とサービス提供 の経験を持つ大学図書館員や情報専門家

 現時点では、先の11大学が異なる4つの業者から図書館用ソフトウェアを導入して おり、それらはINNDPAC(8)、DYNIX(1)、HORIZON(1)、VTLS(1)である(ただし、カッ コ内は採用数)。また、現在のところ合同された目録データベースには110万件が登 録されており、1997年末までに200万件になる見込である。

5. 将来構想

 タイの大学図書館では、現在まさに開発プロジェクトが進められているところであ り、これから2つのネットワークPULINETとTHAILINET-Mを統合し、国全体をカバーす る大学図書館ネットワークTHAILINETを作り上げようとしている計画している。 THAILINETはタイの情報スーパーハイウェイの一部としてマルチメディア情報や先進 的なサービスを提供することになるであろう。また、このネットワークは大学の教員 や学生のみならず一般の人々にとっても有益なものとなるであろう。これはタイの人 的資源開発に重きを置いた8つの経済社会開発プラン(1997-2001)にも合致したもので ある。

 THAILINETの目標を以下に示す。

(1) これまでの事業によって確立されてきた図書館の自動化を進めさらに効率良いも のにすること。

(2) 人的資源の開発と高等教育機関の運営のために役立つ学習と情報(特に地域情 報)センターとなるように大学図書館を発展させること。

(3) PULINETとTHAILINET-Mを強化し、それらを相互接続するとともに他の国内ネット ワークおよび国際ネットワークに接続すること。

(4) 全国書誌センター(National Bibliographic Center)を作ること。

(5) 利用者もサービスの提供者も情報の管理と活用のための知識と経験を得られるよ う、両者の観点に基づいた人的資源の開発を進めること。

 PULINETおよびTHAILINET-Mの全てのメンバーがこのプロジェクトに参加する予定で ある。このプロジェクトの終了時には30の学術分野毎のデータベース、全国書誌セン ター(National Bibliographic Center)、全文データベース、ディジタル図書館、 および電子化された図書館間相互貸借システムが作り上げられると期待されている。 さらに、300,000人の利用者ならびに情報専門家のトレーニングのためのコースを用 意することも計画されている。

6. おわりに

 タイは図書館の自動化という面ではまだ遅れていると言えるであろう。しかしなが ら、THAILINET計画に示されるように将来に向けて前進しようとしている。そこでは、 単一の全国ネットワークの構築、人的資源の開発、協調的なネットワーク運営の3点 に重点が置かれており、筆者には最後の点が特に重要であると考えられる。 それは、コンピュータネットワークがいかに優れたものになったとしても、 THAILINETは参加各図書館の協調無しには資料の重複の削減や情報の共有と相互利用 といった計画の主たる目的を達成することはできないと考えられるためである。 THAILINETが、そう遠くない将来、タイ国立図書館を含み、全ての公立、私立大学図 書館を結ぶように発展するものと考えている。

参考文献

1. V. Goysookho, Thai Academic Library and Information Network (Metropolitan), Proc. Annual Conf. of Library Association of Thailand, pp. 99-124, 1996. (in Thai)

2. V. Techadamrongsin, Status and a Suitable Model of Thai Academic Library Networks, Proc. Annual Conf. of Library Association of Thailand, pp. 193-205, 1996. (in Thai)

3. S. Thongsisooksai, Preparation for Joining Academic Library Networks, Proc. Annual Conf. of Library Association of Thailand, pp. 39-63, 1996. (in Thai)