MAP07: ネット・エチケット(NETIQUETTE)                      パトリック・クリスペン                          山本 毅雄 訳        「郷に入りては郷に従え」--タルムード 今週は相当進みましたね。 connectivity の3レベルの差や、e-mail アドレスの読み方(それでも、*やっぱり* p-crispy-one というのはお かしくないと思う)を教えましたし、手紙を送るのは list アドレスで、 コマンドを送るのは LISTSERV アドレスだということを、頭に叩きこんで もらいました。そして James Milles 氏に、他のメーリングリスト・プ ログラムの世界の紹介までしてもらいました。 しかしインターネットは、コンピュータとコマンドだけで出来ているので はありません。コンピュータとコマンドがいくらあっても、それを使う人間 がいなければ無意味でしょう。コマンドはかっこいいけれど、インターネッ トをインターネットたらしめているのは人間なのです。 問題は、人間のグループには必ず、そのグループ固有の文化と規則ができ、 それが人々の行動を支配する、ということです。 今日のレッスンは、インターネットに最初に乗り出す人が全員やる間違い のうち、いくつかを回避するために、あなたに内部情報を差し上げようとい うものです。もしあなたが、ここに書かれていることを心に刻んでおけば、 情報スーパーハイウェイ上でのあなたの旅行は、ずっと楽になるでしょう。 以下の "ネット・エチケット(訳注1)”(Netiquette--インターネッ ト上でのエチケットは、普通こう呼ばれています)ガイドは、私の父である Bob "Bob" Crispen牧師によって書かれたものです(訳注2)。 これ を読むと、私のユーモアのセンスが親譲りであることがわかるでしょう :) 実際、私がインターネットに最初に入ったのは、お父さんのおかげでした。 (私は、お父さんに e-mail を送って、送金の催促をするため、e-mail アカウントを取ったのですから。) --- ネット・エチケット Bob "Bob" Crispen師 (パトリック・クリスペンのお父さん) 遠からず、お前は Webサーフィンや LISTSERV、IRC、Usenetニュース グループその他もろもろの所の ROM だけでは飽きて、自分でなにか言いた くなるじゃろう。その瞬間、お前の人生は一変するのじゃ。その変化を、よ い方への変化に出来ないものかどうか、ひとつやってみようではないか。 伝道熱: だれでも、ときたま伝道熱にとりつかれ、敵陣深く馳せ入って、銃口の前 を平然と歩みたいという誘惑に駆られる。しかし、comp.sys.intel に出 して Mac や Amiga を称揚したり、SKEPTIC(懐疑主義者)のメーリン グリストに、空飛ぶ円盤は絶対に、ほんとに、実在するのだとメールを出し たり、仏教徒ニュースグループのメンバーに、諸君はすべて地獄に堕ちるぞ と説教したりする連中の末路は、誰一人知らんのじゃ。 ネットの全歴史を通じて、こういうことをやって自分を完全な馬鹿に見せ ずにすんだ者は居らぬ。もしお前が、自分こそは、今まで百万人が失敗して きたその場所で、一人だけ成功する、まさにその当人なのだと信じておるな らば、お前はまさに、次の項目を学ぶ準備が整っておるわけじゃ。その項目 とは・・・ 非難攻撃(Flames): お前が何か一口物を言えば、それが誰をも怒らせぬことはあり得ぬのじゃ。 > It's a bright, sunny day today. (きょうは、よいお天気ですね。)   You filthy *@!?$, what have you got against Seattle? (このくそったれ野郎、てめえシアトルに何の恨みがあるんだ?) (訳注3) Flames(粗暴な、非難の言語的表現)、誤解、過剰反応、腹立ちなんても のは、あって当然、なけりゃ不思議という位のものじゃ。経験にもとづく4 つの教訓は次の通り。 [1] 断定を避けよ。 「メタルこそ王者だ! 従わざる者に死を!」とやる かわりに、「愚考いたしまするに (In my humble opinion, しばしば IMHOと略)メタルバンドは、私めのフィーリング、好みの選択、ライフスタ イルを完全に表現しております。貴方様には別のご意見がおありかと存じま するが(Your mileage might vary. これもネットの決り文句でYMMV と略されることもある)」と言うてみよ。ところで(By the way)BTWも よく使われるネット略語じゃ。こんなことがお役に立ちますかどうか(For what it's worth, FWIW)。 [2] 陳謝せよ。 誤解が原因の場合、そして殊にお前が誤解した人間を尊 敬しておる場合、不明瞭な言い方をした責任を自分でひっかぶり、陳謝し、 (もし適当なら)自分が言いたかったことをより明瞭に述べ、そして問題を 水に流してしまえ。実人生におけると同じく(覚えておるかね?)簡単に怒 る人はまた、簡単に赦すことが多い。 [3] 非難の好餌(当該集団の規則・慣習・習俗等にひどく違反する行為) を避けよ。「ちょっと待ってくださいよ」とお前は言うだろう。「というこ とは、あるリストあるいはニュースグループでは容認される行為が、他の所 では何十通もの攻撃的な、あるいは嘲笑的なコメントを招くとおっしゃるの ですか?」まさにその通り。そうなんじゃから、仕方がなかろう?投稿する 前に、暫くそのあたりをうろついてみることじゃ。人類学者のように、そこ で話されていることを読んで、タブーは何かを発見することを試みよ。学年 始めはこの観察に最良の時期じゃ。というのは、何も知らず、このパラグラ フを読む知恵もない新米たちが、ぼろぼろにやられるのを観察できるから じゃ。場合によりではなく、決してやってはならぬことも幾つかあり、これ は後で列挙するが、まず先に四つ目の助言に進もう。 [4] グループの神々に拝跪せよ。Usenet のニュースグループ毎に、また listserv のメーリングリスト毎に、そのグループ全員の尊敬をかちえて いる老師たちがおる。たとえば、アメリカのバンドリーダー、故 Stan K enton を論ずるリストでは、Kenton レコードの箱入りセットのプロ デューサーや、決定版的な Kenton の伝記やディスコグラフィの著者達が おる。こうい方々に比べれば、お前は全く無知蒙昧なのじゃ。何があろうと 決して、無知蒙昧の徒以外のふりをしてはならぬ。この方々は、きわめて親 切にお前を助けて下さることじゃろう・・・質問に答えたり、珍しいレコー ドを見つけるのを手助けしたり・・・しかし、お前がこの人達の一人と頭の がっちんこをやれば、お前は常に第2位に終ること間違いなし。 更に別のグループメンバー達は、永年勤続の結果としてそのステータスを 得ておる。長い間に友情が培われ、時には結婚さえも起きる。これらの神々 の一柱に対して、或はその神に関して、不敬のコメントを吐くことにより、 お前はこの神の怒りを買うのみならず、その友すべての怒りを買う結果とな ろう・・・そしてその友すべてとは、お前以外のそのグループ全員かも知れ んのじゃぞ! べからず、べし集(又は、非難攻撃の大部分の回避法): [1a] お前の回答に、前の掲載記事の全内容を引用すべからず。 [1b] じゃんじゃんカットすべし。お前が何に答えているのか、ぎりぎり わかるだけ残せ。メールのヘッダは("From:" 行は例外かもしれないが) 決して引用するな。もしお前のメール・ソフト中での行の消し方がわからぬ 場合は、言い換えるか、あるいは引用行をタイプし直せ。 [2a] お前が、誰の書いたどの点に回答しているのか、引用または言いか えせずに返事を出すべからず。理由:元の記事とお前の答えの間には、1 ダースもの記事がはさまるかも知れぬ。またあるサイトでは、元のメッセー ジよりお前の答の方が先に到着するかも知れぬ。 [2b] (手短かに)原文を引用するか、あるいは言い換えるべし。もし元 の"Subject:"行が"Big Dogs"であれば、お前は必ず"Re: Big Dogs" とせよ。ある種の"Reply"プログラムは自動的にこうしてくれる。ネットの 習慣で、引用された行の最初には">"(「より大」符号)を置くことなって おる。ある種のメール・エディタやニュースリーダ・プログラムは、これを 自動的に行う。他のプログラムでは、お前はこれを手動でやるか、あるいは 「インデント文字(indent character)を">"にセットする必要がある。 [3a] 「なぜだれも、Xについて何も言わないんだ?」とか、「誰かXに ついて話す人はいないのか?」というメッセージを送るべからず。 [3b] 新しい話題(topic, しばしばスレッド(thread)と呼ばれる) を開始するのは、つねに危険である。このグループでは、他ならぬこの問題 についての、長く、激しい戦いが終ったばかりかもしれないのじゃ。しかし お前が、敢えてその危険を犯そうというならば、お前が提案しておる話題に ついて、自分でまず何か内容のある発言をすべし。 [4a] 1行70文字(訳注4)より長い行を送るべからず。これは、端末 方式のメール・エディタやニュースリーダ・プログラムを使っておる連中へ の思いやりじゃ。ある種のメール・ゲートウェイは、長すぎる文字をちょん 切って、お前の不滅の大文章をちんぷんかんぷんに変えてしまうぞ。 [4b] ある種のメール・エディタは、一見、改行を挿入してくれるように 見えるが、実際には改行しないので、各パラグラフが巨大な一行となる。自 分のメール・エディタが何をするのかを知るべし。 [5a] 大文字だけの記事を送るべからず(DON'T SEND A MESSAGE IN ALL CAPS)。大文字の記事は、小文字だけ、あるいは大文字・小文字まじ りの記事より読み難いのじゃ。 [5b] 普通の大文字・小文字の使い分けをすべし。パラグラフ間を空白行 で分離せよ。お前の記事を、未来の読者達が読みたくなるように書け。 [6a] 信義を裏切るべからず。私信を全グループ宛の記事に引用すること は、至極簡単にやれてしまうのが問題じゃ。 [6b] 送信する前に、記事の"To:"や"From:"の行をちゃんと読むべし。 本っっ当に、そのメールをそこに送ってよいのかな? [7a] お前の所属機関の公的見解や、ビジネス上の提案と解釈され兼ねん 発言をすべからず。「うわー、ああいうクレイが一台ほしいよな」なんて言 うと、お前の大学の荷物搬入口にトラックが出現し、お前の学資ローン(訳 注5)よりもっと多額の請求書が郵送されてくる結果にならんとも限らんぞ。 [7b] 記事を1つ出すごとに、そのコピーをお前の上司と、お前の教会の 牧師様と、お前の最悪の敵に送る気でやるべし。 [8a] お前の読者の、真面目な発言とパロディや皮肉とを区別する能力に 依存すべからず。おもしろおかしく書くのは難しい。パロディはもっと難し い。 [8b] だれも、お前の声や口調が聞けないことを記憶すべし。 :-)あるい は;^)のような感情記号(emoticon、別名スマイリー smiley)を使え-- 上のスマイルは、頭を左まわりにねじって見るとわかる。強調には大文字を 使い、イタリックや下線のかわりにネット慣用の次の記法を使うことができ る。例: You said the guitar solo on "Comfortably Numb" from Pink Floyd 's _The Wall_ was *lame*? Are you OUT OF YOUR MIND???!!! (ピンク・フロイドの_ザ・ウォール_の「カン ファタブリー・ナム」のギター・ソロが*つまらん*かったとお?おめえ、 いかれちゃってんじゃねえのか???!!!) [9a] 「ぼくちゃんもー」というだけの記事を出すべからず。これが上記 [1]や[2]と組合わさると特に頭に来るぞ。「ぼく知らない」というだけ のも同断。 [9b] Martin Farquhar Tupper(1810-1887)の不滅の名言を記憶 すべし:「時宜を得たる沈黙は、発言よりも雄弁なり」 米国に住む人々へ一言:ネットは国際的なものなのだ。ベルギー人女性に、 あなたは非米国人(的)だ(un-American)と言っても、怒りはしない。も ちろん、彼女は非米国人(的)だし、お前は非ベルギー人(的)なのだ。ま た、憲法修正第1条やアメリカ的価値について説教されても気にはしない。 彼女の憲法には修正第1条は無いし、彼女はベルギー的価値の方がいいと 思っているからだ。われわれ米国人は、どこでも、こういうことを忘れては 恥をかいておる。ネットでは、もう少しちゃんとしようではないか。 最後に、多くのグループが、賢明にも、その基準と慣習を FAQ(fre- quently asked questions, よくある質問集)リストとして、FAQへの の回答とともに(そりゃ、ま、当然じゃが)まとめておる。Usenetの FAQ は、各月程度を区切りとして news.answers に掲載される。LISTSERV のリスト所有者は、自分のリストに関するFAQを、喜んでメールで送ってく れる場合が多い。実際、その幾人かは、お前を自分のリストに歓迎する手紙 の中で、すでにその所在を教えてくれておるかも知れんぞ。 上で縷々述べた諸注意にかかわらず、またニュースグループの司会者達や リスト所有者達が、お前達新人どもに対して提供しているすべての援助にも かかわらず、時には、お前達はわざわざ選んで口をあけ、目と耳を塞いで ネットに飛び込んでゆき、ふだんは大層いい人達を困らせたり、怒らせたり、 せざるを得んかのようじゃ。主が我々に2つの目と2つの耳と1つの口を与 え給うたのは、目と耳を多く使い、口はつつしむようにとの御心じゃろう。 じゃが一方、主はまた我々に十本の指をも与え給うたので、我々はかくも掴 み合うのかも知れんな。 ---- さてここからは私の注意です。 宿題: インターネットにはネット・エチケット・ガイド(Netiquette guides) が何十もあります。IMHO、私のお父さんのほど、よいのはありませんけれど ね:)(1) 実際、Arlene Rinaldiさんは、巨大なネット・エチケット・ガイドを 作っています。これを ftp、gopher、WWW などで取り出す方法を、あと でワークショップ中にやります。 で、今日の宿題は、 1 このレッスンをsaveしなさい。 2 このレッスンを何度も読み返しなさい。 3 すばらしい週末を過しなさい。 注: (1) 私のスマイリーには鼻がありません :) (訳注1) "Netiquette"にはまだ定訳がないようです。「ネチケット」 というのはひびきが悪いので、「ネット・エチケット」と訳してみました。 (訳注2) もちろん冗談で、本人が書いたものです。 (訳注3) シアトルは雨が多い所です。 (訳注4) 日本語(全角文字)では35文字。 (訳注5) 米国の学生や若い人に身近な、「膨大な金額」の例。 Roadmap 原作著作権所有者   (c) 1994 Patrick Douglas Crispen                PCRISPE1@UA1VM.UA.EDU 翻訳者            山本 毅雄                yamamoto@ulis.ac.jp Roadmap Lessons 日本語版著作権所有者     (c) 1995 Reiko Sekiguchi                sekiguch@ulis.ac.jp 本稿は、1995年3月19日、パトリック・クリスペン氏から関口が翻訳・ 配布の許可をいただいて、翻訳・配布しているものです。